「老後資金が心配」「どうせ投資をするなら、できれば“億り人”を目指したい」──こうした思いから、資産形成について真剣に考え始める方は少なくありません。50代から資産形成を始めるのは決して遅すぎるわけではありませんが、20代・30代とは考え方のポイントが少し異なります。本記事では、「億り人」という言葉の意味から、50代以降に現実的なスタンスでお金を増やしていく考え方までを解説します。
億り人ってどういうこと?
まず、「億り人」という言葉が何を指しているのかを整理しておきましょう。
「億り人」の一般的な意味
億り人とは、株式投資やFX、暗号資産などの運用によって、1億円以上の金融資産を築いた個人投資家を指す俗語です。日本語では映画『おくりびと』のタイトルをもじって「億り人(おくりびと)」と読まれるのが一般的です。
証券会社やメディアの記事でも、「株や投資信託などで億単位の資産を運用している個人投資家」という意味で使われています。必ずしも専業トレーダーだけではなく、本業を持ちながら長年投資を続けた結果として資産が1億円を超えた人も含まれます。
派手な成功ストーリーの裏側
ネット上では、「数年で資産が何十倍」「一発逆転で億り人に」といった派手な成功例が目を引きます。しかし、こうしたストーリーはあくまで一部のケースであり、表に出てこない多くの人が大きな損失を抱えたまま市場から退場している現実もあります。
特に50代からの資産形成では、時間的な余裕が限られていることもあり、「一気に増やす」ことより「減らし過ぎない」ことの方が重要になる場面も多くなります。億り人という言葉を目標にするのは自由ですが、それが過度なリスクにつながらないよう、冷静な視点を持つことが大切です。
お金を増やすための投資の手段
50代から資産を増やすためには、「どんな手段があるのか」を広く把握したうえで、自分に合った組み合わせを考えていく必要があります。
代表的な金融商品の特徴
- 預金・定期預金
元本割れの心配が少なく、生活防衛資金の置き場所としては重要です。一方で、金利は低く、大きくお金を増やすことは期待しにくい商品です。 - 個人向け国債
国が発行する債券で、安全性が比較的高いとされます。金利はそれほど高くありませんが、一定期間保有することで安定した利子収入を得ることができます。 - 投資信託(特にインデックスファンド)
多くの銘柄に分散投資できる商品です。世界中の株式や債券に幅広く投資できるインデックスファンドを活用すれば、少額からでも「長期・積立・分散」が実践しやすくなります。 - 株式投資
個別企業の株式を購入し、株価の値上がりや配当金を狙う投資です。うまくいけば大きなリターンが期待できますが、銘柄選びやタイミングによっては価格が大きく下落するリスクもあります。 - 不動産投資
マンションやアパートなどに投資し、家賃収入や売却益を得る方法です。まとまった資金やローンが必要になることが多く、空室や修繕など独自のリスクもあります。 - iDeCo・NISAなどの税制優遇制度
投資そのものではなく、「どういう器で運用するか」を決める制度です。新NISAやiDeCoを活用すると、運用益にかかる税金を抑えながら資産形成ができます。
50代から億り人を目指す場合でも、いきなり高リスクの手段だけに集中するのではなく、安全性の高い商品と成長性のある商品を組み合わせるなど、「全体のバランス」を意識することが重要です。
働く期間・年金受給時期も含めて考える
50代は、今後の働き方や年金の受給開始時期などを含めてライフプランを考えるタイミングでもあります。
- 何歳まで働くことを想定しているのか
- 退職金や企業年金の見込みはどのくらいか
- 年金の受給開始時期を前倒し・後ろ倒しするか
こうした要素によって「投資に回してもよいお金の余裕度」や「リスクを取れる期間」が変わってきます。億り人を目指すにしても、まずは老後の生活を維持するための現実的なラインを押さえ、そのうえでどこまで上を目指すかを考えていくのが堅実です。
株でお金を増やす仕組み
億り人の多くは、株式や株式を組み込んだ投資信託などを活用して資産を増やしてきたと言われます。ここでは、株でお金を増やす仕組みを基本から確認しておきましょう。
値上がり益と配当金の2つの収益源
株で得られる主な収益は、次の2つです。
- 株価が購入時より高くなったときに売却して得られる「値上がり益」
- 企業が利益の一部を株主に還元することで受け取る「配当金」
たとえば1株1,000円の株を100株(10万円分)購入し、数年後に1株2,000円になれば、売却益は10万円になります。さらに、その間に毎年配当金を受け取っていれば、トータルの収益はさらに増えるイメージです。
もちろん、株価が下がれば損失が出ますし、配当が減配・無配になることもあります。大事なのは、個別銘柄に集中し過ぎず、投資信託なども活用しながら分散投資を行うことです。
複利の力を味方につける
株の収益を再投資していくと、「複利」の効果が働きます。複利とは、得られた利益を元本に加えて運用し続けることで、雪だるま式に資産が増えていく仕組みのことです。
たとえば、あくまで仮の数字ですが、500万円を年3%で20年間運用できたとすると、単純計算で約904万円になります(税金や手数料、価格変動などは考慮しない単純な例です)。現実の市場では毎年同じ利回りが続くわけではありませんが、長期的に見れば「時間をかけて、利益も含めて運用し続けること」が資産形成にとって重要なポイントになります。
インデックス投資やNISAの活用
個別株の分析に自信がない場合や、忙しくてこまめに売買できない場合は、日経平均株価や世界株インデックスなど、市場全体に連動するインデックスファンドを活用する方法もあります。
- 新NISAの「つみたて投資枠」で、インデックスファンドを毎月積み立てる
- 「成長投資枠」で、インデックスファンドや個別株を組み合わせる
こうしたしくみを使うことで、少額からでも「長期・積立・分散」を実践しやすくなります。億り人を目指すかどうかにかかわらず、50代からの資産形成では、まずこの土台をしっかり作ることが重要です。
50代から「億」を目指すときの現実的な考え方
50代から1億円の金融資産を目指す場合、スタート地点や収入、家族構成などによって難易度は大きく変わります。ここでは、どのような点に注意しながら目標設定を行えばよいかを整理します。
1. まずは「必要額」から逆算する
いきなり「1億円」という数字だけを見るのではなく、「自分と家族の生活に必要なお金はいくらなのか」をざっくり計算してみることが先です。
- 65歳以降の生活費(毎月いくら必要か)
- 住宅ローンや教育費など、今後の大きな支出
- 医療・介護などに備えておきたい金額
これらをもとに、「年金+退職金+すでにある貯蓄」でどこまで足りるのかを考え、その差額を埋めるために投資でどのくらい増やす必要があるのかを見積もります。そのうえで、「もし結果的に1億円に届いたらラッキー」というスタンスの方が、無理なリスクを取らずに済みます。
2. 収入アップと支出の見直しも「投資」と考える
資産形成は、金融商品だけで完結するものではありません。
- スキルアップや資格取得によって収入を増やす
- 健康維持のための運動や食事に投資し、医療費リスクを減らす
- 固定費(通信費、保険料など)を見直して、投資に回せる余裕を作る
こうした取り組みも広い意味での「投資」です。50代以降は、金融資産だけでなく、自分自身の働く力や健康、人間関係なども含めた総合的な資産をどう育てるか、という視点が重要になります。
3. 過度なレバレッジや短期売買は慎重に
短期間で億単位を目指そうとすると、どうしても高いレバレッジや短期売買に頼らざるを得なくなります。しかし、これらはリターンの振れ幅が大きく、思惑が外れたときには取り返しのつかない損失につながるリスクがあります。
特に50代は、退職や年金受給が視野に入る時期です。一度大きく資産を減らしてしまうと、挽回するための時間も限られます。億り人という言葉に刺激され過ぎず、自分と家族の生活を守ることを最優先に考える姿勢が欠かせません。
本ページの内容は、資産形成の考え方を紹介するものであり、特定の金融商品や投資手法を推奨するものではありません。実際の投資判断は、ご自身の状況や目的に応じて行い、必要に応じて金融機関や専門家にご相談ください。
出典:野村證券 証券用語解説集「億り人」/SMBC日興証券 証券用語解説集「億り人/億トレ」/日経マーケティングポータル「『億り人』に共通する特徴は?」/金融庁 NISA特設ウェブサイト「資産形成の基本」
